ATMOSPHERE / 「青空の裏がわ」の続き

青空のひろがり

Bluesky は、Atmosphere(アトモスフィア)と呼ばれる空を飛んでいる、いちばん大きな一羽にすぎない。同じ空の下で、写真も、ブログも、ポッドキャストも、地図も、Git も、レゴブロックも動いている。

ただし、そのほとんどが英語で書かれている。日本語だけを読んでいると、この空には Bluesky が一羽しかいないように見える。見えていないのであって、無いのではない。

ここは、ことばの壁の向こう側にある空を、ジャンルごとに日本語で並べた名鑑だ。

入口 写真と映像 文章 集まる・つくる 別の空 辺境

各項目の年は、そのサービスが Atmosphere 上にアカウントを作った年、または公開リポジトリができた年だ。正式な公開日ではないが、確認できる目安になる。2023〜2024年のものを濃い色で示した。この空では、それだけで十分に古株だからな。

なぜ見えないのか

壁は三重になっている

日本語圏に Atmosphere の話が届きにくいのには、はっきりした理由が三つある。

一つめ。発表される場所が英語だ。新しいサービスは Bluesky の英語投稿、英語のブログ、英語の Discord で告知される。日本語の記事になるころには次の波が来ている。

二つめ。速すぎる。新顔は週に十件前後のペースで増え続けている。追う人がいないと、まとまった形にならない。

三つめ。名前だけが先に届いた。日本に伝わったのは「Bluesky」というアプリの名前で、その下にある「Atmosphere」という空の名前ではない。Atmosphere という語をきちんと説明した日本語の資料は、いまも数えるほどしかない。

つまり、日本語で見えている Bluesky は、この空の入口の一つでしかない。入口を替えても、あなたのアカウントはそのまま使える。それが「青空の裏がわ」で書いたしくみの意味だ。

大きさ

いくつあるのかは、誰も正確に知らない

およそ 1,000

2026年8月、Bluesky の CEO がインタビューでこの数を挙げた。ただし何をどう数えたのかは示されていない。試作品も、個人が週末に作ったものも含めれば届く数だろう。

確かなのはこちらだ。この一年、毎週十件前後の新しいサービスが紹介され続けているそして途切れていない。以下は、その中から日本語で説明できるものを選んで並べたものになる。網羅ではない。

入口を替える

CLIENTS

同じアカウントのまま、画面だけを取りかえるアプリ。いちばん実感しやすい「乗り換え」がここにある。日本製が四つ入っているのは偶然ではない。日本語の検索や表示は、日本の作者のほうが手をかけるからな。

写真と映像

PHOTO / VIDEO

Instagram や TikTok にあたる位置。ここは競争がいちばん激しい区画で、同じ場所を狙う複数の作り手が並んでいる。写真は Bluesky の投稿と同じ倉庫に入るので、どのアプリから入れても消えない。

文章を書く

LONGFORM

この区画は、Atmosphere でいちばんうまくいった共同作業の例になっている。競合するブログ三社が話し合って、ブログ記事の共通の形(standard.site)を決めた。だから、どこで書いても他のアプリから読める。囲い込みの逆をやったわけだ。

音を鳴らす

AUDIO

聴いた曲の記録、ポッドキャスト、生配信。ここは日本語圏からも入りやすい区画になっている。言葉が要らない部分が多いからな。

集まる・つくる

COMMUNITY / TOOLS

SNS の形をしていないもの。ここが Atmosphere のいちばん面白い所だと思う。同じアカウントで、Git のリポジトリにもイベントの出欠にも入れる。アカウントを作り直さなくていい。そして作っているのは大きな会社ではない。ベルリンのエンジニア flo-bit のように、一人で小さな道具を次々に出す人がこの区画を厚くしている。

別の空をつくる

SOVEREIGN STACKS

ここが、この名鑑でいちばん重い区画だ。アプリを作るのではなく、Bluesky 社に頼らない土台そのものを建てている集団がいる。倉庫も、集配所も、組み立て係も、自分たちで持つ。「青空の裏がわ」で「理想であって現実ではない」と書いた部分を、実際にやっている人たちだ。

Blacksky アメリカ / 2023年6月から

黒人の利用者のための場所として始まった。最初は「おすすめの並べかた」を自分たちで作るところからだったが、そこで止まらなかった。集配所(Relay)を独自に建て、しかも他人が使える形で公開している。土台のプログラムも Rust という言語で一から書き直した。

ここが重要なのは、嫌になったら出ていける、を実際にやってみせた最初の例だからだ。理屈ではなく動いている。

blackskyweb.xyz

Eurosky 欧州(オランダ拠点) / 2025年設立・2026年4月公開

動機は欧州の主権だ。データを欧州のサーバーに置き、欧州の法律の下で扱う。アプリを一つ作るのではなく、欧州の開発者が乗れる土台を用意することを目的にしている。最初の仕事に選んだのは、モデレーション(何を隠すかの判断)を小さな作り手どうしで共有するしくみだった。

国や地域の単位で「自分たちの空」を持てるか。その実験がいま欧州で進んでいる。

eurosky.tech

Gander カナダ / 2026年公開

カナダ国内にすべてを置くSNS。おすすめの押しつけをせず、広告のための監視をしない、と最初に宣言している。投稿するには一度だけ本人確認を通す必要があり、いまのところこれはカナダ国内からしか受けられない。二千五百人以上が出資して立ち上がった。

Bluesky と同じ土台の上にあるので、将来つながることを前提にしている。閉じた国産SNSを作るのとは、そこが違う。

gander.social

三つとも、Bluesky を憎んで出ていったわけではない。同じ空を飛びながら、自分の巣は自分で持つ、という形を選んでいる。これができるのが Atmosphere の設計だ。

辺境

THE FRINGE

分類しようがないものたち。毎週の紹介はこの区画がいちばん厚い。SNS を作ろうとしていない人たちが、SNS の土台の上に自分の趣味を建てている。この空が本当に広がっているかどうかは、ここを見るのがいちばん早い。ここだけは年が「日本語で紹介された年」であって、作られた年ではない。

壁を越える

日本語で追うための手がかり

この名鑑に並べたものの大半は、日本語で紹介されているものを拾い直した結果だ。壁は完全ではない。渡してある板が何枚かある。

「今週のリンク」(#ATプロトーク) @yamarten.bsky.social が毎週まとめている新着リンク集。この名鑑の新興サービスは、ほとんどここから採った。日本語で Atmosphere を追う一次資料は、いまのところ事実上これが中心になっている。

Bluecast のライブ配信 同じ人が毎週、その週の動きを日本語で喋っている。読むより速い。

日本のミートアップ 東京・大阪・福岡などで開かれている。回を重ねている。告知は connpass に出る。

日本製のクライアント TOKIMEKI と Klearsky。日本語で作られた入口が二つあるというのは、この空ではかなり恵まれている部類だ。

いま起きていること

空はもう一段ひろがろうとしている

2026年8月、Atmosphere に「公開しないデータ」を置くしくみ試験版が出た。これまでこの空に置けるのは、原則として誰でも読めるものだけだった。ここが変われば、非公開のメモも、限られた人だけのやりとりも、同じアカウントの上に載る。

ただし試験版だ。仕様は毎週動いている。本番は来年からになる見込みだ。

つまり、いま見えている広がりはまだ途中の姿だということになる。数えられた「およそ1,000」も、来年には別の数字になっているだろう。