Blacksky アメリカ / 2023年6月から
黒人の利用者のための場所として始まった。最初は「おすすめの並べかた」を自分たちで作るところからだったが、そこで止まらなかった。集配所(Relay)を独自に建て、しかも他人が使える形で公開している。土台のプログラムも Rust という言語で一から書き直した。
ここが重要なのは、嫌になったら出ていける、を実際にやってみせた最初の例だからだ。理屈ではなく動いている。
blackskyweb.xyzATMOSPHERE / 「青空の裏がわ」の続き
Bluesky は、Atmosphere(アトモスフィア)と呼ばれる空を飛んでいる、いちばん大きな一羽にすぎない。同じ空の下で、写真も、ブログも、ポッドキャストも、地図も、Git も、レゴブロックも動いている。
ただし、そのほとんどが英語で書かれている。日本語だけを読んでいると、この空には Bluesky が一羽しかいないように見える。見えていないのであって、無いのではない。
ここは、ことばの壁の向こう側にある空を、ジャンルごとに日本語で並べた名鑑だ。
各項目の年は、そのサービスが Atmosphere 上にアカウントを作った年、または公開リポジトリができた年だ。正式な公開日ではないが、確認できる目安になる。2023〜2024年のものを濃い色で示した。この空では、それだけで十分に古株だからな。
なぜ見えないのか
日本語圏に Atmosphere の話が届きにくいのには、はっきりした理由が三つある。
一つめ。発表される場所が英語だ。新しいサービスは Bluesky の英語投稿、英語のブログ、英語の Discord で告知される。日本語の記事になるころには次の波が来ている。
二つめ。速すぎる。新顔は週に十件前後のペースで増え続けている。追う人がいないと、まとまった形にならない。
三つめ。名前だけが先に届いた。日本に伝わったのは「Bluesky」というアプリの名前で、その下にある「Atmosphere」という空の名前ではない。Atmosphere という語をきちんと説明した日本語の資料は、いまも数えるほどしかない。
つまり、日本語で見えている Bluesky は、この空の入口の一つでしかない。入口を替えても、あなたのアカウントはそのまま使える。それが「青空の裏がわ」で書いたしくみの意味だ。
大きさ
およそ 1,000
2026年8月、Bluesky の CEO がインタビューでこの数を挙げた。ただし何をどう数えたのかは示されていない。試作品も、個人が週末に作ったものも含めれば届く数だろう。
確かなのはこちらだ。この一年、毎週十件前後の新しいサービスが紹介され続けている。そして途切れていない。以下は、その中から日本語で説明できるものを選んで並べたものになる。網羅ではない。
同じアカウントのまま、画面だけを取りかえるアプリ。いちばん実感しやすい「乗り換え」がここにある。日本製が四つ入っているのは偶然ではない。日本語の検索や表示は、日本の作者のほうが手をかけるからな。
機能の多いスマホ用クライアント。長く動いている定番。
公式アプリを分岐させて作られた。設定を細かく開けたい人向け。
日本製のウェブ用クライアント。日本語の扱いが手厚い。
これも日本製。機能を隠さず全部並べる方針。
日本製。いいねの数もフォロワーの数も、数字を全部隠す。ばいそに作。数を競わない読みかたを、心がけではなく機能として作ってある。iPhone と Android で動く。
iPhone 用。下書きが端末間で同期される。
TOKIMEKI を作ったほりべあの手による。Bluesky が落ちているときの避難所として作られた。四つの役わりが分かれていることの意味が、いちばんはっきり出る例だ。
後述の Eurosky が作っているクライアント。欧州の基盤の上に乗る。
Instagram や TikTok にあたる位置。ここは競争がいちばん激しい区画で、同じ場所を狙う複数の作り手が並んでいる。写真は Bluesky の投稿と同じ倉庫に入るので、どのアプリから入れても消えない。
写真中心のアプリ。ベルリンの開発者による。この区画の先発。
同じく写真と動画。iPhone と Android の両方で動く。Pinksky から名前が変わった。
縦型の短い動画。TikTok にあたる位置を狙っている。
ライブ配信。Atmosphere の会議の中継にも使われた。
白黒二階調の写真だけを投稿する。昔の携帯ゲーム機のカメラ風。
画像を静かに集めて並べる。この区画は今も増え続けている。
画像の置き場。上げた画像を他のアプリから使う。
この区画は、Atmosphere でいちばんうまくいった共同作業の例になっている。競合するブログ三社が話し合って、ブログ記事の共通の形(standard.site)を決めた。だから、どこで書いても他のアプリから読める。囲い込みの逆をやったわけだ。
ブログ記事の共通の形そのもの。三社が共同で作り、Bluesky の画面にも表示されるようになった。
長文とニュースレター。共通の形を作った三社の一つ。
同じく三社の一つ。個人ブログ寄り。
三社の三つめ。ニュースレター、エッセイ、連載小説、批評。読者との関係を書き手が持ち続けることを掲げる。
Markdown で書くブログ。日本語圏でも使われている古株。
ブログ。書く場所の選択肢がまた一つ増えた形だ。
共通の形で書かれた記事を、書き手をまたいで集めて読む。
記事の購読と執筆。読む側の道具も出てきている。
聴いた曲の記録、ポッドキャスト、生配信。ここは日本語圏からも入りやすい区画になっている。言葉が要らない部分が多いからな。
音声のライブ配信とポッドキャスト。日本のエンジニア So Asano が作った。日本語の番組もここで放送されている。
聴いた曲を自動で記録する。Last.fm の道具がそのまま使える。サイトが不安定なので Bluesky のアカウントを張っておく。
いま繰り返し聴いている曲の共有。
音楽そのものを置く場所。プロデューサーと DJ 向けで、素材の使用条件を付けて配れる。Bluesky のアカウントでそのまま入れる。
SNS の形をしていないもの。ここが Atmosphere のいちばん面白い所だと思う。同じアカウントで、Git のリポジトリにもイベントの出欠にも入れる。アカウントを作り直さなくていい。そして作っているのは大きな会社ではない。ベルリンのエンジニア flo-bit のように、一人で小さな道具を次々に出す人がこの区画を厚くしている。
ソースコードの共同開発。GitHub に代わるものとして作られた。Bluesky のアカウントでそのまま入れる。
リンクを投げて票を集める掲示板。Reddit や Hacker News にあたる。
イベントの告知と出欠。Atmosphere の会議もここで受け付けた。
グループのチャット。Discord にあたる位置を狙う。
自分でフィードを組み立てる道具。プログラムを書かずに作れる。
自分の紹介ページを、部品を並べて組み立てる。上の flo-bit 作。
ばらばらのアプリから届く通知を一箇所にまとめる受け皿。アプリごとに許可を出し、いつでも取り消せる。同じ作者だ。
誰にブロックされているかを調べる。数字を見る側の定番。
ここが、この名鑑でいちばん重い区画だ。アプリを作るのではなく、Bluesky 社に頼らない土台そのものを建てている集団がいる。倉庫も、集配所も、組み立て係も、自分たちで持つ。「青空の裏がわ」で「理想であって現実ではない」と書いた部分を、実際にやっている人たちだ。
黒人の利用者のための場所として始まった。最初は「おすすめの並べかた」を自分たちで作るところからだったが、そこで止まらなかった。集配所(Relay)を独自に建て、しかも他人が使える形で公開している。土台のプログラムも Rust という言語で一から書き直した。
ここが重要なのは、嫌になったら出ていける、を実際にやってみせた最初の例だからだ。理屈ではなく動いている。
blackskyweb.xyz動機は欧州の主権だ。データを欧州のサーバーに置き、欧州の法律の下で扱う。アプリを一つ作るのではなく、欧州の開発者が乗れる土台を用意することを目的にしている。最初の仕事に選んだのは、モデレーション(何を隠すかの判断)を小さな作り手どうしで共有するしくみだった。
国や地域の単位で「自分たちの空」を持てるか。その実験がいま欧州で進んでいる。
eurosky.techカナダ国内にすべてを置くSNS。おすすめの押しつけをせず、広告のための監視をしない、と最初に宣言している。投稿するには一度だけ本人確認を通す必要があり、いまのところこれはカナダ国内からしか受けられない。二千五百人以上が出資して立ち上がった。
Bluesky と同じ土台の上にあるので、将来つながることを前提にしている。閉じた国産SNSを作るのとは、そこが違う。
gander.social三つとも、Bluesky を憎んで出ていったわけではない。同じ空を飛びながら、自分の巣は自分で持つ、という形を選んでいる。これができるのが Atmosphere の設計だ。
分類しようがないものたち。毎週の紹介はこの区画がいちばん厚い。SNS を作ろうとしていない人たちが、SNS の土台の上に自分の趣味を建てている。この空が本当に広がっているかどうかは、ここを見るのがいちばん早い。ここだけは年が「日本語で紹介された年」であって、作られた年ではない。
Atmosphere とつながった Minecraft のサーバー。
野鳥の観察記録。見た鳥を記録して共有する。
樹木の観察記録。鳥の次は木だ。
自分で測った気象データの共有。
香水のレビュー。
乗ったジェットコースターの記録。
画面の中で組むレゴブロック。
レシピの共有。
日本語学習。仮名と文法を速く見分ける練習をする。
スタンプラリー。
読書の管理。図書館の貸出サービスとつながる。
飲んだお茶の記録。
宇宙を飛ぶレースゲーム。自分のアカウントの姿で走る。
ミームとコピペの収集。
画像掲示板。
日本製のグループチャット。後述する「公開しないデータ」のしくみを早速使っている。
壁を越える
この名鑑に並べたものの大半は、日本語で紹介されているものを拾い直した結果だ。壁は完全ではない。渡してある板が何枚かある。
「今週のリンク」(#ATプロトーク) @yamarten.bsky.social が毎週まとめている新着リンク集。この名鑑の新興サービスは、ほとんどここから採った。日本語で Atmosphere を追う一次資料は、いまのところ事実上これが中心になっている。
Bluecast のライブ配信 同じ人が毎週、その週の動きを日本語で喋っている。読むより速い。
日本のミートアップ 東京・大阪・福岡などで開かれている。回を重ねている。告知は connpass に出る。
日本製のクライアント TOKIMEKI と Klearsky。日本語で作られた入口が二つあるというのは、この空ではかなり恵まれている部類だ。
いま起きていること
2026年8月、Atmosphere に「公開しないデータ」を置くしくみの試験版が出た。これまでこの空に置けるのは、原則として誰でも読めるものだけだった。ここが変われば、非公開のメモも、限られた人だけのやりとりも、同じアカウントの上に載る。
ただし試験版だ。仕様は毎週動いている。本番は来年からになる見込みだ。
つまり、いま見えている広がりはまだ途中の姿だということになる。数えられた「およそ1,000」も、来年には別の数字になっているだろう。